「ご利用いただけます」の意味は、単にyou can use です。
なぜ「いただく(謙譲語)」が使えるかというと、
「『いただく』の主語はデパートであって、顧客ではないから」です。
「~していただく」は複雑な構造の敬語です。
たとえば「では、まず先生にお話ししていただきましょう」という文章。
「お話し」するのは誰か? 「先生」です。
では「いただく」のは誰か? 先生ではなく、「話者(あるいは聴衆)」です。
「いただく」とは、頭の上に両手を挙げ、(場合によっては跪<ひざまづ>いて)相手から何かをもらう(いただく)イメージです。
※ いただくとは「頂く」とも書きます。「頂点、山の頂(いただき)」と同じです。何か高いところの話であるわけです。
「先生にAAしていただく」というのは、「先生がAAをして」「その行動そのものを、私はありがたくももらっている(いただいている)」ということです。「ありがたくももらう」、つまり謙譲です。
以上にもとづき、デパートが「こちらのエレベーターがご利用いただけます」というのは、誤りではないことになります。いただいて、謙譲しているのは、(顧客ではなく)デパート側だからです。ホント、ややこしいなと日本人の私も思います。
※ 「ご利用いただきます」ではなく「ご利用いただけます」と可能形になっているのはなぜか? これは「ご利用いただきます」と言い切ると結局、「絶対このエレベータ使え」「このエレベータしか使えない」という意味が生じるからです。可能形にすれば「他のエレベータを使ってもよい」ことになり、顧客の自由度、選択の幅が増えることになります。