「~やしない」の用法には二通りの用法があるようです。
①『不満』を表す。
・裕子は大学に来やしない。
・兄は働きやしない。
・注文した本が届きやしない。
以上は全て発話者が「~しない」ことに対して『不満』の気持ちを抱いています。
②『当然(当たり前)』を表す。
・このあたりに雨は降りやしないよ。そういう気候なんだ。
・明日の試合はぜったい負けやしないさ。
以上は全て発話者が「~しない」ことに対して『当然(当たり前)』という気持ちを抱いています。
なお、辞書では「や」は係助詞「は」の音韻変化したものとしか説明されていませんが、「は」と「や」では発話者の感情の発露の程度に違いがあるように思えます。上記①②の例文中の「や」を「は」に置き換えてみますので聞き比べて下さい。
・裕子は大学に来はしない。(裕子は大学に来やしない。)
・兄は働きはしない。(兄は働きやしない。)
・注文した本が届きはしない。(注文した本が届きやしない。)
・このあたりに雨は降りはしないよ。そういう気候なんだ。(このあたりに雨は降りやしないよ。そういう気候なんだ。)
・明日の試合はぜったい負けはしないさ。(明日の試合はぜったい負けやしないさ。)
上記の例文の印象からすれば、特に『不満』の感情を表す表現としての「や」は「は」よりもいっそう発話者の不満度が高いように聞こえます。これは「は(ha)」と「や(ya)」の発音上の違いから来るものだと思います(「や《ya》」は間投助詞にも用いられているように語勢を強める働きがあると思われる)。以上のような観察から、私は日本語話者は「~はしない」と「~やしない」を無意識(又は意識的に)に使い分けているのだと思います。従って「は」=「や」ではないと考えます。