>また、「こうもあろうか」とはどういう意味でしょうか。
「こうもあろうか」は英語で大ざっぱに直訳すればwhat it will be, how it will beです(itは「感情」を指します)。さて、ここではもう少し深い分析をします。
「家族の私に対する感情は、こうもあろうかということを私は察していた」
という文には、筆者の「軽い驚き」あるいは「戦慄」を感じます。
では、その「戦慄」の源泉は何か? それは「も」と「か」です。
試しに「も」「か」を抜いて、代わりに「で」を入れてみます。
「家族の私に対する感情は、こうであろうと私は察していた」
これは全然、怖くありません。
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*** 品詞分解
+++「こうある」 =「こう」+「ある」
例文:「こうあるべきだ」
+++「こうである」=「こう」+「で(=に+て)」+「ある」
例文:
「家族の感情はこうである」
「1+1は2である」
- 「に」: 『場所』を表す。「て」:『確定』を表す。
- AはBである -> Bという結論の場所が確定的に示され、明確になる。
例文:
OK:「1+1は2である
NG:「1+1は2でもあろうか」
「家族の感情はこうである」
→ 「感情はこう」ということがハッキリしており、予想外のことはない。ハッキリ分かっているので、別に怖くもない(戦慄しない)
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***「も」とは
「こうある」「Aである」というとき、「ある」のは「こう」「A」1個(1種類)だけです。他にはありません。
「こうもある」「Aでもある」というとき、「ある」のは「こう」「A」の他にたくさん、いろいろあります。
このように「~も」は、「~だけじゃない、他にもいろいろある」ことを暗示します。曖昧ゆえの奥行き、含意を好む日本語(or日本文学)では、非常に好まれ、よく使われる助詞です。
例文:「秋も深まってまいりました」
(いろいろ深まっている、そして秋『も』深まっている)
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***** 再度、品詞分解
家族の感情は「こうもあろうか」 = 「こう」+「も」+「あら」+「う(む)」+「か」
意味合いは「家族の感情にもいろいろある。でもさ、いろいろっていっても、まあ、たいてい想定内というか、常識的な範囲でしょ。え、それが何、こういうこと「も」ありうるわけ!? それは予想を超えていた....」ということになります。
なお「う(む)」は推量の助詞。「か」は疑問、転じて賛嘆の助詞となります。
例文:
「女とはこう怖いものか」
(予想の範囲内の怖さ、という感じ。はっきり分かって少し安心)
「女とはこうも怖いものか」
(予想を超えて怖かった、という感じ。もうオレの手には負えないという戦慄)